『餅は餅屋』
餅は餅屋のついたものがいちばんうまい。
その道のことはやはり専門家が一番であるというたとえ。
このようなことわざがあるように、人にはそれぞれの専門分野があり、
特に日々行う仕事においてはその傾向がより一層顕著になると予想されます。
以前、私はお小遣い稼ぎのような軽い感覚で
名古屋市のとあるコンテストが募集する短編小説(1500文字程度)に応募し、
ものの見事に落選したことがありました。
本来なら誰にも言わずに心の奥底にしまっておきたい記憶なのですが、
そのような黒歴史を自分の中に封印しておくのもつまらないので、
せっかくなので開き直って作品を公開することを決心しました。
まえがき
私が応募したのは「NAGOYAヴォイシ―ノベルズ・キャビネット」という
オリジナル短編小説を募集するものであり、
コロナ禍で読む人に「元気」「勇気」「感動」「笑い」を届ける作品を
web上の本棚として掲載するためのコンテストでした。
コンテストである以上、応募すれば誰でも掲載されるようなものではなく、
プロの審査員による厳正な審査を通過した作品のみが日の目を見るのです。
私はその中でも当時掲載作品がゼロであった「笑い」に目をつけ、
「毎日ブログを書いているし文章力は充分あるはず!」と自信を持って構想を練りました。
そして自らニヤニヤしながら文章を書き進め、
ついに完成した際には「採択間違いなし!」という確信とともに応募ボタンを押しました。
それではその会心の作品をご紹介しましょう。
タイトル:喫煙所での一幕
「あのさ、八方美人って言葉あるじゃん。」
「ああ。それがどうかした?」
「お前には言ってなかったんだけどさ、実は先週末に同期のやつらとコンパがあってさ。」
「なんで俺も誘ってくれないんだよ」
「いや、参加予定だった吉田が急に仕事が入っちゃったらしくて、急遽代役として俺が呼ばれたんだよ。」
「ああ、そういうことなのか。それで?」
「それで急に呼ばれたコンパだったし、相手の女の子もどんな人たちなのか全く事前情報が無かったからさ、特に期待せずにとりあえず楽しいお酒が飲めればいっか、ってノリだったわけ。」
「まあ急に呼ばれたらそんなもんかもな。」
「ところがだ。」
「何だよ。」
「女の子の中にひとり、見た目はすごく大人しそうなんだけど、みんなのドリンクの注文を聞いて回ったり、食べ物も率先して取り分けたり、とにかく一生懸命な子がいてな。
しかも異性に好かれようと無理に頑張ってるって感じじゃなくて、みんなの楽しい会話を邪魔しないように黒子に徹している雰囲気の子でさ。」
「何それ。お前かなり気に入ってんじゃん。」
「そうなんだよ。コンパの途中でその子の健気な行動に気づいてからというもの、他の誰も気づいてないその子の魅力に自分が気づいてしまったという優越感もあって、ますます目が離せなくなっちゃったというワケなんです!」
「結局その子とは仲良くなれたわけ?」
「それがね、あまりに感心してついついその子にこう言っちゃったんだよ、八方美人ですねって。」
「お前それは最悪だよ。八方美人って誰にでも良い顔するっていう、どっちかというと悪口じゃないか。」
「そうなんだってな。俺はてっきり、八方美人はいろんな人に親切にできて誰からも好かれる美しい人、って意味だと思ってたのよ。」
「それはとんだ勘違いだったな。」
「でもさ、本当の意味を聞いても未だに理解できないんだけど、何で周りの人に好かれようと努力できる人が悪口の対象になるわけ?」
「…うーん。“あざとい”って意味なのかなあ。」
「“あざとい”って、もはや同性からの妬みだよね、それは。」
「それはそうかもしれないけど…。相手に好かれるためには誰かの悪口も言ったりするような、世渡り上手な人のことを言うんじゃないの?」
「そうか。でも世渡り上手も妬みだよね。」
「そんなことよりさ、結局その子とはどうなったのよ。」
「あっ、そうそう。俺が意味を間違えて八方美人なんて言ったりしたもんだから、場の空気が一瞬で凍り付いてさ。しかもその子は泣き出しちゃって。」
「そりゃみんなのために色々やってたつもりなのに、公衆の面前で八方美人なんて言われちゃったら泣きたくもなるよ。」
「そうだよな。でもその時の俺は、場が凍り付いた理由も、その子が泣き出した理由もわからなかったから、コンパが終わってから急いで同僚に尋ねたってわけ。」
「そこでようやく事の重大さに気づいたってことか。」
「まあそういうことだ。俺の勘違いのせいでひどく傷つけてしまったわけだから、何とかしてちゃんと謝らないとって、同僚に頼んで必死に連絡先を聞いてもらってさ。」
「最終的にちゃんと謝れたの?」
「おう!俺が八方美人って言ったのは悪い意味じゃなくて、みんなのために陰でこっそりと努力できる姿が、誰が見ても素敵だと思って間違えて言ってしまいました、って。」
「ちゃんとわかってもらえたんだ?」
「いや、俺が八方美人の言い間違いを弁解するためにあまりにも熱弁し過ぎちゃって、いつの間にやら告白みたいになってさ、最終的にはその子と付き合うことになったよ。」
「何だよ、結局ノロケ話だったのかよ。」
「昨日、ついに彼女から「ウチに遊びに来ませんか?手料理ご馳走しますよ。」ってお誘いを受けて、行ってきたんだよ。」
「いやいいよ、お前のデートの話は。」
「いや、それがさ。出てきた料理を見たら思わず吹き出しちゃって。」
「どういうことだよ。」
「いやあ、何とよりによって『八宝菜』だったんだよね。」
「何だよそのオチ。……さあて、そろそろ仕事に戻りますか。」
あとがき
いかがだったでしょうか?
東京03のコントのようなクスっと笑ってしまう日常を題材としたつもりですが、
今読み返してみれば「そりゃ採択されないわな」といった感じですね。
そもそもこのコンテストで採択された場合、
プロの劇団員の方々によって小説を朗読してもらえるのですが、
私自身、自分の作品が朗読されている光景が想像できません。
(そもそも会話文だけの文章は”小説”と呼べるのでしょうか?)
しかしこの作品を自信満々で書き終えたのが8月のコトでしたが、
落選のショックから立ち直り、黒歴史としてブログに掲載できるまでに
2ヵ月かかりました。(笑)
ポイント
冒頭でご紹介した「餅は餅屋」という言葉が表す通り、
調子に乗って自分の専門でないものにまで手を出してはいけないということを
身をもって痛感した次第です。
しかし今となっては良い思い出、良い経験となりました。
日本のどこかで笑ってくださる方がいれば作者冥利に尽きるというものです。
それでは最後までお読み頂きありがとうございました。
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