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せんブログ

税金のお話

恐怖の相続時精算課税

皆さんこんにちは!

バレンタインデーをいかがお過ごしでしょうか?

平日なので普段と変わらないという方も多いでしょうね。

地元名古屋にある高島屋では、毎年バレンタインイベントが開催されていますが、

売上・規模ともに日本一のようです。

2019年にはなんと27億円もの売上だったとのこと。

今年は新型肺炎の影響もあるので少し減少するかもしれませんが、

それでもすごい規模のイベントですよね…。

さて、今日は相続時精算課税制度の注意点について書いていきたいと思います。

相続時精算課税とは

まず相続時精算課税制度について、概要をご説明いたします。

対象者

贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)が

それぞれ以下のとおりでなければなりません。

 ・贈与者:贈与した年の1月1日において、60歳以上の父母、祖父母

 ・受贈者:贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上の子、孫

制度の概要

上記対象者の要件を満たす者(便宜上、今後は『親子』で仮定します)からの贈与について、

一生涯において2,500万円までは贈与税の課税を繰り延べ

それを超えた場合には一律20%の贈与税を課すという制度です。

一生涯、とされているので、1年で2,500万円の枠を使い切る必要はなく、

複数年に渡ってコツコツと積み上げても構いません。

また贈与する財産についてですが、特に制限はありません。

したがって現預金、不動産、株、車、貴金属など何でも結構です。

なお相続時精算課税制度を適用する場合には

贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに

贈与税申告書と併せて『相続時精算課税選択届出書』を提出しなければなりません。

「納税がないから申告もいらない」というわけにはいかないのでご注意ください。

相続時精算課税の落とし穴

上記の制度概要を見ると非常に使い勝手のよい制度のように感じますが、

押さえておくべきポイントを確認せずに実行すると大変後悔することになります。

では注意点をひとつひとつ確認していきましょう。

暦年贈与が使えなくなる

相続時精算課税制度は強制ではなく、

暦年贈与とどちらかを選択適用することとなります。

暦年贈与は年間非課税枠110万円でおなじみの制度ですね。

もし一度相続時精算課税を選択したら、その後暦年贈与に戻すことは不可能です。

先ほどの制度概要で記載したとおり、

精算課税でも2,500万円未満であれば贈与時に課税されることはありません。

しかし一度2,500万円を超過してしまえば、

その年度以降、極端に言えばお年玉1万円をあげた場合にも

贈与税申告をしてその分の納税を行う必要があります。

暦年贈与であれば110万円以内だからお咎めなしで済んでいたことも

相続時精算課税では通用しなくなるのです。

小規模宅地等の特例との併用不可

土地に関して相続時精算課税制度を適用する場合には

小規模宅地等の特例と併用できないことは確実に抑えておく必要があります。

小規模宅地等の特例は最大で土地の課税価格を80%減少させる強力な優遇規定です。

これが使えないという段階で、精算課税制度には大きなデメリットがあると言えます。

したがって土地に関して相続時精算課税を利用する際には、

その土地について小規模宅地等の特例が適用できないか検討を行いましょう。

そもそも非課税ではない

この認識を間違えていると非常にリスクが高いです。

相続時精算課税は「贈与時点での課税は見送りましょう」という制度。

相続時精算課税は非課税ではないのです。

いわゆる課税の繰延べに過ぎません。

贈与者である親が亡くなった際に、他の相続財産と併せて課税が行われます。

その時の課税価格は相続時の価額ではなく、贈与時の価額です。

この非課税でないという事実をきちんと理解せず、

年間110万円の非課税枠を放棄する代わりに

生涯で2,500万円の非課税枠に変更した、というような認識を持って実行される方が意外と多いです。

実際に大手の不動産会社のホームページを見ても、

相続時精算課税が暦年贈与と同じように非課税枠を有するものとして

紹介されているケースが非常に多いのも事実です。

また実際の業務に携わる税理士に関しても、

その誤解への責任がある場合も少なくないのではないかと思います。

税理士の説明不足 or 税理士は精算課税を勧めたい

単純に対応した税理士がきちんと非課税でないことや

その他のリスクについて説明し切れていないケースもあると思います。

しかしもう一つ考えられることは

税理士が相続時精算課税の適用を率先して勧めたいケース。

「2,500万円までなら贈与しても(贈与時は)税金掛かりませんよ」

という言葉は非常にインパクトがあります。

またそのような制度を提案すれば、ノウハウの提供によるコンサル料として

まとまった額の請求をしやすくなるでしょう。

したがって一部の税理士には精算課税を適用させる動機があるのです。

(※すべての税理士ではありませんのでご注意ください。)

そもそも税理士や不動産会社などの提案する側の人間が相続時精算課税制度を説明する際、

本来『非課税』という誤解を招くワードを使用すること自体が私はNGだと思います。

課税時における財産の状況は関係ない

先ほど記載した通り、相続時精算課税は非課税ではなく、

贈与者である親が亡くなったときに、贈与時の価額で課税が行われます。

例を使ってご説明しますと、

下図のように親から子へ建物2,500万円を相続時精算課税を使って贈与したものとします。

その際には特に贈与税を払わずに移転することができますよね。

その数年後、贈与した親が亡くなりました。

親が亡くなったとき、先ほどの2,500万円の建物の価値が大変値上がりしており

4,000万円まで高騰していたと仮定しましょう。

上述のとおり、親が亡くなった際に初めて、生前に贈与していた建物は課税されますが、

その際の課税価格は贈与時の価額です。

つまり相続時の4,000万円ではなく2,500万円で計算してOKということになります。

この場合には相続時精算課税をやっておいて良かった!となりますよね。

しかし反対に相続時に建物の価値が1,000万円に値下がりしていたらどうでしょうか?

その場合にも当然贈与時の価額で課税されるため、

1,000万円ではなく2,500万円で課税がされてしまいます。

このケースでは、おそらく精算課税をやらない方が良かったですよね。

お察しのとおり、相続時精算課税では将来値上がりするものには適用するメリットがあり、

反対に将来値下がりするものに関してはデメリットとなります。

「将来のことなんかわかるか!」

と思う方がほとんどでしょうね。

ごもっともです。

でしたら暦年贈与や他の優遇規定の方法をしっかりと探るべきだと思います。

最悪のケース

先ほどの親から子へ建物を贈与したケースにおいて、

親が生前のうちに、例えば地震や家事などで建物が滅失していた場合にはどうなるでしょうか?

正解は親が亡くなったときに『贈与時の価額で課税』です。

相続時にその財産が値下がりしようが、消滅していようが関係ありません。

したがって建物を贈与した場合、建物が無くなっていても

株を贈与した場合、その会社が倒産していても

何ら国からの救済制度はありません。

なので精算課税を適用する際には

その財産が将来値下がりする可能性はないか?

あるいは万が一消滅した場合のリスクも承知の上か?

ということはしっかりと確認を重ねてから実行することをお勧めいたします。

遺産分割協議上の問題

相続というものは、税額だけ計算すればいいというものではありませんよね。

相続人、ときには相続人以外の親族も巻き込んだ争い、

俗に言う「争族」に発展してしまうことも少なくありません。

相続時精算課税に関しては、相続時の財産分割の際にも

話をややこしくしてしまう一因となり得ます。

相続税法上、相続時精算課税の課税時の価格は「贈与時の価額」でしたね。

しかし相続時に民法も密接に関係してきます。

民法上、生前に贈与を行った財産は特別受益として相続財産に加算されます。

これを生前贈与の持ち戻しと言います。

つまり「生前に贈与した分も加味して財産を分けましょうね」ということですね。

ここで注意が必要なのは、

民法の持ち戻し時の価格は「相続時の時価」なのです。

そう、相続税法と民法では異なる時点での価額を用いるのです。

例えば親が亡くなった場合で、相続人は子供2人と仮定しましょう。

その際の親の財産が3,000万円だったとします。

もし生前に相続時精算課税を利用して相続人のうち1人に建物2,500万円分を贈与していた場合、

相続税法と民法ではどのような違いとなるか。

相続税法上では何度もお伝えした通り、

建物の価値は贈与時の価額2,500万円で税額計算でしたよね。

対する民法では持ち戻しする際の価額は「相続時の時価」。

つまり親が亡くなったときに4,000万円に値上がりしていれば4,000万円、

1,000万円に値下がりしていれば1,000万円なのです。

では消滅していたら?

民法上はゼロです。

税額を計算する上では2,500万円のものが

遺産分割協議の場では違う価額で考慮される。

税負担も含めて考えたらより一層ややこしいことになりますよね。

相続時精算課税が広まっている以上、このような事例が今後頻発することとなるでしょう。

受贈者が先に死んでしまったら?

世の中には、残念ながら親よりも先に子供が亡くなってしまうケースも存在します。

そのようなケースで、その親子間で相続時精算課税の適用をしていたらどうなるでしょうか?

相続時精算課税によって亡くなった子Bが有していた、

その財産に対する権利あるいは親Aが亡くなったときに発生する納税の義務は

今回亡くなった子Bの相続人(配偶者や子Bの子供(Aから見た孫))に承継されます。

したがって将来、受贈者である親Aが亡くなったときに

子Bの相続人が納税義務を負うこととなります。

上述のとおり、親Aが亡くなった際に当該財産の価値が値下がりしたり、

ゼロとなっていたとしても、

子Bの配偶者や子供は贈与時の価額に基づいて税金を支払う義務を負うのです。

税理士も要注意!

相続時精算課税について注意すべきなのは納税者だけではありません。

我々税理士の同様なのです。

相続時精算課税制度が創設されたのは平成15年。

今から17年前です。

当時50~60歳の親御さんが制度を利用し始めたとしたら、

今後10~20年のうちに

過去に精算課税制度を利用して生前贈与を行った贈与者が

お亡くなりになるケースが頻発することでしょう。

我々税理士は、相続人が過去に相続時精算課税による贈与を受けていないか

しっかりと確認せねばなりません。

その際には相続人本人からヒアリングするだけでは足りず、

(そもそも数十年前のことなら本人すら忘れている可能性があります。)

過去に相続時精算課税の適用があったかどうか、

税務署へ照会をかける必要があると思います。

これを『贈与税の申告内容の開示請求手続』と言います。

税理士自身が古くからずっと関与を続けていれば把握できているでしょうが、

他の税理士から移ってきてくれたお客様や

単発で相続税申告を受注する際にはぜひ照会制度をご活用ください。

仮に過去に相続時精算課税で受け取った財産があったことを見逃して

相続税申告をしてしまった場合、

相続人一人あたり数千万円ずつ、課税財産が過少となっている可能性があります。

場合によっては1件の相続で

課税漏れ財産が1億円を超えることだってあり得ます。

考えただけでも恐ろしいですよね…。

そのような事態を避けるためにも、キッチリ確認は取っておきましょう。

ちなみにお客様が他の税理士から関与変更で移ってきた場合には

仮に相続が発生していなかったとしても、早めに税務署へ照会をかけておくことで

今後110万円の暦年贈与を適用できるのか確認しておくことが望ましいでしょう。

最後に

本日は相続時精算課税制度について長々と記載いたしました。

この制度自体をすべて否定するつもりはありませんし、

実際おトクになるケースも多いことかと思います。

私がお伝えしたいのは、制度の良し悪しではなく、

利用する方がきちんと制度を理解した上で実行して頂きたいということです。

金額も大きくなるケースがほとんどでしょうし、

慎重に慎重を重ねてご検討なさってから適用することを強くお勧めいたします。

またご不明点等ございましたら

コメント欄や事務所ホームページのお問い合わせからメッセージ頂ければ幸いです。

では今日もお読み頂きありがとうございました。

またお会いしましょう。

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服部 大

2020年2月に名古屋で独立開業したギリギリ平成生まれのゆとり税理士/中小企業診断士です。 こちらのブログでは、私自身の事務所経営や日々の生活で感じたことを自由気ままに綴っていきます。

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