どこを調べても「答え」が載っていなくて困っている
先日、同じ税理士業界で働く友人からこんな悩みを打ち明けられました。
その友人は最近自分の担当を持ち始めたばかりなのですが、
このような悩みを受けて、
私が初めて担当を持ち出した頃、全く同じことで悩んでいたことを思い出したものです。
そのものズバリが回答として用意されている税理士試験とは異なり、
実務ではピッタリ一致するような事例があることの方が珍しいのです。
今回は税理士業界で働く上で必要な思考についてお伝えしたいと思います。
「税理士試験の勉強は実務で通用しない」は本当?
税理士に限らずよく耳にするコトとして、
資格試験と実務は違うぞ!
というお説教じみたコメントがありますが、これは正しいのでしょうか?
私の個人的な感想としては、
半分正解で半分間違いかな
という印象です。少なくとも言えることは、試験勉強の知識が基礎となるということなので、
試験勉強で身につけた知識の上に、実務用のノウハウを積み上げる
という考え方が正しいかと思います。
つまり試験勉強の知識では賄えない部分があったとしても、
その知識が不要であるという結論に至ることは絶対にありません。
具体的には税務上定められている様々な制度の適用要件は、
客観的な基準を満たしているかどうかによって判定するものも多く存在するため、
学問としての知識があればそのまま実務でも活用することができますよね。
以下はほんの一例ですが、
- 消費税の課税事業者の要件
- 所得税の住宅ローン控除の要件
- 法人税の特別償却の要件…など
これらのように金額や取得時期など、
客観的な基準を適用要件に当てはめるようなものについては
試験勉強の知識をそのまま実務に活かすことが可能ですので、
ココがポイント
資格試験の勉強が「実務では無駄」なんて思う必要はありません。
しかしその一方で、
税務の世界はすべての物事が白黒ハッキリ別れるような明白なものではなく、
その大半がグレーゾーンに覆われた世界ではないかとすら思います。
したがって資格試験のような唯一無二の答えなど用意されていないので、
自分自身で「それが結論としてふさわしいこと」を理論づける必要があります。
そのような場面においては、
学問としての知識に加えて実務用のノウハウも求められることとなるのです。
答えが載っていない「個別の事例」にどのように対応すべきか
実務上、答えがどこにも載っていない問題は山ほどあります。
- 役員への報酬や退職金はいくらまで支払うことができるか
- 会社と社長、関係会社間取引の場合、取引金額はいくらが妥当か
- 社宅家賃の個人負担分はいくら以上なら税務上問題ないと言えるか
- 事業所得と雑所得の境界線はどこか
頻繁に取り上げられるこれらの一例でも唯一無二の明確な基準が定められておらず、
いわゆるケースバイケースの対応が求められています。
税法の条文を調べても「客観的合理性」や「社会通念上」という言葉が頻繁に用いられ、
結局それっていくらなの?
という回答を探しても、決して見つかることはありません。
ポイント
したがって実務の世界では
存在しない「正解」を探すことを諦めなければならないときが必ずやって来ます。
逆に言えば、インターネットなどで調べて正解がわかるのであれば、
そもそも税理士なんて必要ありませんものね。
答えが載っていないことだからこそ、我々専門家の出番が回ってくるのです。
したがって実務のプロを目指す人は、
重要ポイント
「正解」を探す能力だけでなく、
「正解」がないときには「結論」を自分自身で用意して、
それが正しいと説明するための根拠を備え付ける能力が求められるのです。
そのためには
- その条文や制度自体がどのような趣旨で設けられているのか
⇨自分の用意した結論はその趣旨から逸脱していないか
- 「客観的合理性」や「社会通念上」という表現に当てはまっているか
⇨同業他社や世間相場と比較して、
自分の用意した結論が乖離していないかどうか
こういったことを普段から考えていく必要があります。
自分の用意した結論に対し、税務調査官が疑問を投げかけてきたときに
これはこういう理由で正しいと考えて処理を行っています
と調査官を納得させられる説明ができるか否かが重要となるのです。
いわゆる「理論武装」ってやつですね。
したがって正解を見つけることも大切なのですが、もっと大事なのは
ココがポイント
それが正しい結論だと納得させられるだけの根拠が用意できているか
ということだと思います。
そのためには税法解釈や様々なデータの収集が必要であることは言うまでもありません。
私が考える学問と実務の最大の違いは、
さらに詳しく
「正解」を導き出す勉学に対して、
実務では、ときには「正解」が存在しないにもかかわらず、
自分の用意した「結論」こそが「正解」であると証明しなければならない
というところにあるものだと思います。
(何だか謎かけみたいになっていますね。笑)
このような難しい側面があるからこそ、
税理士業務のすべてをAIが代替することは不可能とする所以でもありますよね。
最後に
今回は税理士の資格試験の知識と実務の違いについてお話ししました。
グレーゾーンばかりの世界では、
なかなか答えが出せずにもどかしさが募ることも多いですが、
自分の考えをしっかりと上司や税務調査官に伝え、
用意した根拠や主張が通る瞬間はとてもやりがいを感じることでしょう。
勿論、お客様にご満足して頂けたときは言うまでもありません。
そのためには私自身も謙虚に学び続けなければいけませんね。
それでは最後までお読み頂きありがとうございました。
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