皆さんこんにちは。
なごやん税理士の服部大です。
もう今年も残すところあとわずかですね。
私の勤務先では明日が仕事納め。
いよいよ今年の仕事も最終日を迎えます。
ただし例年とは違い、今回の年末年始は開業に向けた大事な準備期間。
ここでどれくらい前進できるかによって、最初のスタートダッシュが大きく変わってくることは間違いないでしょう。
まずはしっかりと体調管理をし、熱でダウンしたりすることがないよう徹底せねばなりません。
特定口座とは
さて、今日の本題に入ります。
年末が近づいてきて所得税の確定申告時期も間近まで迫ってきましたね。
最近ではサラリーマンでも副業に精を出す方も増えてきていますが、投資を行っている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?
ビットコインなどの仮想通貨が騒がれていた時期もありましたが、以前から根強い人気を誇るのが株式や投資信託への投資活動。
欧米に比べればまだまだなのでしょうが、日本でも昔に比べれば投資家は増加しているものと思われます。
投資利益に対する課税漏れの懸念
投資活動を行えば、儲かる人も損する人もいます。
損した人は所得がないということですので仮に申告をしなかったとしても問題はありませんが、儲かった人は当然利益にあたる部分は所得として申告しなければなりません。
しかし投資活動を推進し始めたかつての日本では、それまで年末調整のみで確定申告に馴染みのないサラリーマンによる申告漏れが相次ぎました。
中には意図的に申告を行わなかった輩も数多くいたでしょうから、課税庁がそのような事態を見過ごし続けるわけもありませんよね。
特定口座制度の発足
そこで平成15年に発足したのが特定口座制度。
その口座内にある株式や投資信託から発生する配当金収入や売却によって発生した譲渡益に対し、特定口座を管理する各証券会社等によって適切な税額で源泉徴収が行われます。(以下、源泉徴収選択口座と仮定)
例えば10,000円の配当収入が発生した場合、自動的に2,000円の税金が天引きされ、残額の8,000円が入金される仕組みです。
配当や売却による収入を入金する際にすでに正しい税金が課せられているのであれば、国からすれば課税漏れが生ずる余地は無く、仮に納税者が無申告であったとしても問題はなくなるのです。
納税者も面倒な確定申告手続きをしなくても良いということで、より気軽に投資活動に足を踏み入れることができたことでしょう。
そう、特定口座の最大のポイントは確定申告不要であること(=申告不要制度)なのです。
特定口座制度の前にも申告不要制度はあった!?
実は特定口座が発足した平成15年以前にも、投資活動に関する申告不要制度はありました。
しかしその内容は、売却金額そのものに無条件に税率を乗じて源泉徴収を行う方法で、売却により儲かったのか損したのかは一切考慮されない制度だったようです。
なので正しい税額を計算するためには確定申告をしなければならない、という面で現在の特定口座による申告不要制度とは毛色が違ったようです。
特定口座をあえて申告する意味
お伝えした通り、正しく税金が徴収されている特定口座をあえて申告する必要は本来ありません。
ただしあえて申告した方が良い場合もいくつかあるのです。
- 総合課税で申告した方が税率が低い場合
- 株式等の譲渡損を繰り越す場合
- ふるさと納税の限度額を引き上げる場合
では順を追って見ていきましょう。
総合課税を選択するケース
特定口座内では税金が正しく計算されることは先ほどお伝えしましたね。
では技術的になぜそれが可能なのか。
それは株式等に対する税率が一律(20.315%)であるからです。
つまり1万円の儲けだろうが1億円の儲けだろうが、かかる税率は同じなのです。
同様に、株による配当や譲渡益以外に給与や不動産収入による多額の所得があったとしても、配当や譲渡益には一律20.315%の税金が課せられます。
つまり株の配当や譲渡益に関しては、他の所得から独立・分離された課税方法(=分離課税)を採っているのです。
しかし実は株の配当に関しては20.315%の分離課税のほか、給与所得などと合算(=総合課税)して超過累進課税により申告することもできます。
超過累進課税とは、簡単に言うと所得が多ければ多いほど税率が上がる課税方式です。
つまり所得が少ない場合には税率が低くなるのです。
よって『超過累進課税による税率<分離課税による税率(20.315%)』が成立するとき、特定口座内の配当をあえて超過累進課税による低い税率で課税されるために確定申告を行うことがあるのです。
譲渡損の損益通算・繰越控除
他にもあえて確定申告を行うケースがあります。
これまで特定口座内で配当収入や譲渡益が発生した場合についてご説明してきましたが、反対に譲渡損が出た場合にはどうなるのでしょうか?(配当に関してはマイナスが出ることはあり得ませんよね。)
例えばひとつの特定口座内で、
- 配当収入 50万円
- 譲渡損 ▲20万円
が生じた場合、実はこの2つを相殺することができます(=損益通算)。
つまり50万円▲20万円=30万円に対して20.315%の税金がかかることとなります。
これは同一の特定口座内であれば証券会社にて自動で計算をしてくれます。
つまりこのケースであればあえて申告はしなくてもいいでしょう。
しかし特定口座は複数所有することができます。
例えば先ほどの例において、配当収入50万円はA口座、譲渡損▲20万円はB口座で発生したと仮定しましょう。
すると先ほどの同一特定口座内であれば相殺できていたものが、別々の口座の場合には相殺できなくなります。
ひとつの証券会社ならまだしも、複数の証券会社間で特定口座をいくつも持っていれば、証券会社間で情報を共有して相殺処理を行うなど技術的に不可能でしょうからね。
したがって複数の特定口座間で相殺処理を行いたい場合には確定申告を行う必要があります。
もうひとつの事例としては、1つの特定口座内で
- 配当収入 20万円
- 譲渡損 ▲50万円
が生じたと仮定しましょう。
最初のケースのように、同一の口座内であれば相殺が可能ですが、今回の場合は譲渡損のマイナスの方が大きいですね。
つまり20万円▲50万円=▲30万円となり、相殺し切れない▲30万円が残ります。
この引き切れなかった▲30万円は翌年以降3年間は繰越が可能(譲渡損の繰越控除)です。
つまり翌年以降3年間に発生した配当収入や譲渡益と相殺し、過払いとなった源泉所得税については還付を受けることができるのです。
この譲渡損を翌年以降に繰り越すためには、確定申告を行うことが要件とされているのです。
ふるさと納税限度額との関連性
そしてあえて確定申告を行う3つ目のケースは、ふるさと納税限度額を引き上げる場合です。
以前ふるさと納税のブログ(https://senblo.xsrv.jp/furusatonouzeityuui/)でも記載した通り、ふるさと納税の限度額はその年の課税所得で決まります。
特定口座内の配当収入や譲渡益が生じた場合、これを申告しないとふるさと納税の限度額計算における課税所得にも含まれません。
しかしこれらをあえて申告することで課税所得を増やし、ふるさと納税の限度額も引き上げることができるのです。
「そんなことしたら税金増えるんじゃないの?」
と思うかもしれませんが、最初にお伝えした通り特定口座が申告不要なのは適正な税額計算が済んでいるから。
つまり申告してもしなくても同じことです。
したがってあえて確定申告したところで直接的に税金が増えることはありません。
ただし「直接的」には増えなくても間接的に増えるケースはあります。
例えば特定口座を保有している方が、他の誰かに扶養されている場合。
この場合に特定口座内の所得を申告すると、それらの所得も合算して扶養に該当するか否かの判定を行うため、場合によっては扶養から外れてしまう場合があります。
他にも社会保険ではなく国民健康保険を支払っている場合には、あえて確定申告を行うことで世帯所得が増加し、翌年の国民健康保険料が増加する場合があります。
したがってふるさと納税の限度額を引き上げることだけを考え、あえて特定口座内の所得を申告すると、思いもよらない逆効果となってしまうこともあります。
その辺りの判断は税理士に確認するなど慎重に行うようにしましょう。
最後に
今回は特定口座内の所得をあえて確定申告するケースについて確認しました。
確定申告時期までまだ時間はありますので、どのような選択をすることが最も望ましいのか、今一度ご検討頂ければ幸いです。
ではまたお会いしましょう。
今日もお疲れ様でした。